【東京メトロ対談】困難だらけの新規事業を
乗り越えるために、あるべきクライアントと
パートナーの関係とは

東京メトロの新規事業として発足したプログラミング教室運営事業「プログラボ」に、Penguin Tokyoはマーケティングの戦略策定から実行支援に渡って携わっています。今回は、東京メトロで新規事業を推進されていらっしゃる3名の方に、新規事業でのマーケティングの実行における課題や、あるべきパートナーとの関係性について語っていただきました。

Profile

東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 左から

新規事業推進担当 課長 小泉 博様

新規事業推進担当 北山 由奈様

新規事業推進担当 会田 正幸様

Penguin Tokyo株式会社 右から

代表取締役 関根佑輔

執行役員 山下徹

インタビューに入る前に

山下 「インタビューに入る前に、皆さまの経歴をうかがってもよろしいでしょうか?」

小泉様 「私は1995年に、当時の営団地下鉄に入社しました。図工が好きだったため、建築学科を志望し、大学時代は地下に居住空間つくるような研究をしていました。入社後はずっと駅づくりの仕事をしていましたが、その後管理部門に異動となり、新規事業部門にいたるという流れです」

北山様 「私が入社したのは2011年の震災直後です。大学が工学部の土木系だったため、入社からの5年間は駅の改良工事を進める部門にいました。大学時代は情報系の授業が好きだったので、いまこうしてプログラミング教室に関わっているのも何かの縁かなとは思っています」

会田様 「2012年に中途で入社しました。最初は駅員として、浦安駅、葛西、西葛西に3年間配属されました。その後は車掌となり日比谷線で3年間勤め、社内の公募制度で新規事業を企画・運営する企業価値創造部に参画することになりました。本日はよろしくお願いします」

時流とメンバー思いが重なったタイミングで
立案された「プログラミング教室」

山下 「東京メトロ様の中で、プログラボという事業が立ちあがった経緯、目的についてお聞かせいただけますでしょうか?」

小泉様 「もともと、東京メトロ沿線の住民や利用者向けのサービスを新規事業として考えていました。スーパーやホテルなども挙がりましたが、私たちがすべきことは何かと考えたときに、教育をテーマにしようという流れになりました。

ちょうど、新学習指導要領でプログラミングが必修化となるというのと、新規事業を立案するメンバーに子どもがいることもあって子ども向けのサービスをしたかったというのがあります。

そういった時流とメンバーの思いが重なったタイミングだったので、ロボットプログラミング教室を事業として進めることになりました。」

 
 

似ている?似ていない?新規事業と鉄道事業

山下 「新規事業の企画やロボットプログラミング教室の運営は、鉄道事業とまったく違う仕事で大変だったのではないでしょうか?」

小泉様 「私は入社以来13年間、駅の内装をつくる仕事をしており、その過程ではユーザーにヒアリングするなど、新規事業をつくるのと似ている部分もありましたね。もちろん必要な知識は異なりますが、仕事の進め方は案外似ているところがあります」

関根 「会社から求められる要素で違いを感じる部分はありますか?」

北山様 「鉄道事業では、失敗が事故につながるので絶対に許されません。一方で新規事業は失敗してもいいというわけではありませんが、トライアンドエラーが前提になるという違いはあると思います」

会田様 「私はもともと日比谷線の車掌をしていましたが、当時は決められた仕事を決まった通り進めるというのが求められていました。いまは自分で考えるという、これまでと違った仕事なので、大変なこともありますが日々やりがいを感じています」

新規事業の課題はお金があっても
モノに変える人がいないこと

山下 「新規事業の立ち上げ時は人やお金などのリソースがなくて大変という話もありますが、プログラボ立ち上げ当時の状況はいかがでしたか?」

小泉様 「人もいないし、体制も整っていない。知識もない。ただ、社内の新規事業への期待は高まっており、予算に関しては獲得しやすかったです。しかし、予算だけあっても事業を形にしていく人がいない、そんな状況でした」

関根 「最初は手探りだったのですね。どういった点が大変でしたか?」

小泉様 「そもそも東京メトロとして、“なぜプログラミング教室なのか?”を説明するのが大変でした。メンバーの思いがベースにあったものの、組織として事業化の意思決定をするにあたり、思いだけでは通らないので、しっかり説明する必要がありました。

実は以前にも実現できなかった新規事業はいっぱいあって、やっと通った第一号の企画がプログラボだったのです。」

山下 「フランチャイズ交渉も小泉様が担当されたのでしょうか?」

小泉様 「そうです。2020年のプログラミング教育必修化に間に合わせるために、フランチャイズという選択をしました。ただ、フランチャイズと言ってもいろいろなフランチャイズがあります。その中で、関西でプログラミング教室を運営しているミマモルメ(※阪神電気鉄道株式会社100%子会社)さんにヒアリングしたところ、先方の担当者の方が鉄道会社出身の方で、沿線を大切にするというモチベーションは私たちと同じだったこともあり、スムーズに交渉は進みました」

関根 「立ち上げる段階と立ち上げ後にグロースさせていくというフェーズの違いについてもお伺いしたいです。とりわけ、事業が立ち上がった後の話は、直接携わっていない限り、あまり聞くことがありません。ですので、立ち上げ後に直面された困難について、具体的にお聞かせいただければと思います」

小泉様 「実は立ち上げ時は勢いだけでもなんとかなります。

しかし、立ち上がった後は、売上や利用者数といった形で、結果が数字として出てくるので勢いだけではどうにもなりません。本当は立ち上げ時に成長戦略をしっかり描いておくべきなのですが、そんな時間もないのでなかなか難しいです。ただ、教室運営を止めるわけにもいかず、結果的に、発生したことに対して場当たり的な対応になってしまうという部分はあります」

関根 「そうですね。私たちも、他社さんの新規事業で、「試行錯誤」というより、場当たり的な対応に終始して、うまくいかなったケースを何度か見てきました。今回、そうした事態を避けるため、事業計画達成に向けた成長戦略の再定義や、短・中期の施策の洗い出しと優先度付けなどから支援をさせていただきました。足元の事業を運営しながら、東京メトロさんのように、そうした本質的な検討に着手されている会社さんは珍しいと感じています。」

外部のパートナーへの要望は
「欲を言えば実行まで全部やってほしい」

山下 「新規事業を推進するにあたり、私たちのような外部の人間に求めるのはどのような部分でしょうか?」

小泉様 「専門的な知識や経験が少ないため、その部分を助けてもらいたいですね。また、新規事業を運営する中で、社内調整に結構な時間が取られてしまいます。本当は内向きではなく外向きの仕事をしたいのですが、社内調整だけは外部の人にお願いするわけにはいきません。なので、マーケティングは外部の方に推進いただくことで、顧客に向き合っていきたいと考えています」

北山様 「新しくこういうのことをやりたい、というアイデアはあっても、日々のルーティンを回しながらその実行までこぎつけるのが大変です。なので、アイデアの具現化を手伝っていただけるとありがたいです」

会田様 「また、提案をいただく際にも、プログラボの事業理念を理解したうえで、提案していただけると助かります」

小泉様 「ああしたらいい、こうしたらいいといったコンサルをしてくれる人はいっぱいるのですが、欲を言えば実行まで全部やってほしいと思っています。

例えばクリエイティブを考えるだけではなく、ポスターとして印刷して貼ってくれるところまでやってくれるとうれしいです」

関根 「まさにPenguin Tokyoは、上から目線のコンサルティングだけでなく、戦略から実行まで一気通貫で支援することを目指して創った会社です。

今回、戦略面では、事業計画の達成に向けた成長戦略の再定義などを、実行面ではブランドのタグライン、キークリエイティブ開発、駅構内や電車内のポスター制作から、Webサイトの企画・制作、デジタル広告やSNS施策の企画・運営、イベントの設営までを、包括的にサポートさせていただきました。

しかし、おっしゃっていただいたように、ポスター貼りのような泥臭いところも含めて、まだまだできることはあると思っています」

北山様 「Penguin Tokyoさんに対しては、日々いろいろなお願いに対応していただいたり、提案をしていただいたりしている点は助かっています。

個人的には、ポスターのクリエイティブをつくる際に、教室の室長やコピーライターの方を交えたワークショップを行なっていただいたのが印象的でした。

おかげさまで、理念や思いを反映したとてもいいキャッチコピーができましたし、そのコピーに対して、あるブロガーの方が“プログラボの広告が痺れた”と賞賛してくれたこともあり、私自身、誇らしく感じました」

困難を伴う新規事業を乗り越えるために、
あるべきパートナーとの関係性とは

関根 「発注元と発注先という関係だと、さまざまな困難が伴う新規事業を一緒に乗り越えられないと思います。例えば、仕事の進め方ひとつとっても、今回は常駐ではなく会議体ベースでした。振り返ってみて、他にどういうご支援のあり方がよかったか、ご意見はありますか?」

小泉様 「例えば、出資をしてもらうとか出来高制にするというのもあるかもしれません。ビジネスモデルによっては利益率の問題もあって難しいケースもありますが、事業の成長によってパートナーとレベニューシェアするような形が理想なのかもしれないなと思っています。

あとは、外部の方を一機能として事業内に組み込むということも、必要かもしれません。教室長は専属で採用していますが、同様に、プログラボ専属のマーケティングスタッフをアサインしてもらうといったようなやり方もあると思います」

関根 「確かにそこまでコミットメントができると、発注元・発注先という関係は変わりますね。

改めて、新規事業をグロースさせるためには何が必要だと思われますか?」

小泉様 「新規事業は「出島」のような位置づけにしていった方がいいと思います。文化やルールを含め、既存事業とは別に組織を作るようにしてもいいかもしれません。既存事業が好調だと人材リソースなどの取り合いになります。既存事業がかげり始めてから新規事業を強化するのでは遅いのですが、なかなか踏み出せないジレンマもあります。なので、既存事業から切り離して、出島のような形で自由に動けるようにするのが、グロースさせるために必要ではないでしょうか」

新規事業を担当している人間の心が折れたら
そこで終わり

関根 「私は過去に新規事業に関わっているさまざまな方と接してきましたが、上層部から新規事業を立ち上げろと言われてやってる人も多いなか、プログラボの皆さまはモチベーションを高くやられているなという印象です」

小泉様 「上層部からあまり細かく言われていないという面はありますね。新規事業を担当している人間の心が折れたら進まなくなることを理解してもらっています」

北山様 「困難も多いですが、簡単には心が折れない理由としては子どもたちの笑顔がありますね。特に綾瀬校のロボットプログラミング大会で優勝した子どもたちについては、優勝という実績もうれしいのですが、プロセスを見ていた分、実力を発揮して満点で課題をクリアしたことが本当にうれしかったです」

山下 「去年から1年ほどご支援させていただいて、至らぬところもあったのかなと思いますが、いただいたアドバイスを基に、さらによりよいご支援ができるよう、私たちも精進していきたいと思います。今日は本当にありがとうございました」

<カメラマン>
・岡田雷平