資生堂のEC事業部長に聞く 事業会社がマーケティングパートナーに求めるものとは

私たちPenguin Tokyoはクライアントのマーケティングパートナーとして、マーケティング戦略の立案支援や、マーケティングの施策実行、人材育成などの業務に携わっています。マーケティングが意味するところの幅は広く、クライアントによって求める成果は異なるため、一般化が難しい仕事です。

事業会社は外部のマーケティングパートナーに対して何を期待し、どのように活用しているのでしょうか。Penguin Tokyoでご一緒にお仕事させていただいている資生堂の徳丸部長にお話を伺いました。

Profile

徳丸 健太郎様

1992年に入社し、営業部に配属。その後、ブランドマーケティングの組織を経て事業戦略組織を担う組織へ異動。事業の課題に向き合う中で、ECサイトの構想を立案し、今に至る。

Penguin Tokyo マーケティングエグゼキュティブ

勅使川原 晃司

◆資生堂が「ワタシプラス」に取り組む理由とは

―― 資生堂にとって「ワタシプラス」はどのようなサービスでしょうか?

徳丸様 もともと、資生堂は販売店を通してお客様に商品を届ける形で成長してきたため、通販のような直接商品を届けるダイレクトビジネスと呼ばれる領域をどのように進めていくかは事業のテーマとして存在していました。

草花木果のように、“資生堂”の名前を冠さない形では事業をおこなっていましたが、資生堂として非店舗販売領域をどのように進めていくか、答えは出ていませんでした。

―― そんな中、「ワタシプラス」の原型が生まれたのですね

徳丸様 そうですね。ECサイトの企画が生まれたのは2009年頃だったと思います。私自身、資生堂のブランドとしては店舗での丁寧なコミュニケーションを通して商品を展開すべきだと考えており、肯定的ではなかったのですが、あるセミナーに参加した際に大きく考えを改めることになりました。

それまで、「ECサイトはチャネルの1つである」と考えていたのですが、本来の価値は「お客様とダイレクトにつながることができる」という点だと気づいたのです。

―― 当時の事業状況はどのようなものだったのでしょうか

徳丸様 元々、TVCMなどのマスプロモーションは資生堂が担い、One to Oneのコミュニケーションを店舗に任せるという役割分担をしていました。販売店を通じて商品の価値という手法がうまくいっていたように思います。

しかし、インターネットが登場してきて、お客様と直接つながることが可能になりました。また、脅威としてはマスメディアの顧客への到達力の低下やドラッグストアのようにFace to Faceで商品を紹介しない形の店舗の増加などがありました。

このような課題から、顧客とのダイレクトなコミュニケーションを強化する、そのためにオンオフ問わないCRM基盤を作るというのが根本の方針でした。当時はオムニチャネルという言葉もあまり言われてなかったように思います。

―― ECサイトではなくCRM基盤として立ち上がったのですね。何か気をつけてきたことはありますか?

徳丸様 関係部署とのコミュニケーションを丁寧にしてきました。営業部はリアルにお客様と接しているので、いろいろ意見をもらうことも多かったです。将来の資生堂を背負うビジネスをやっている気概はありましたが、現実的にやってみると大変です。

例えば、店舗で登録しやすいインターフェースになっておらず、ご指摘を頂くこともありました。また、当時はガラケーがメイン。キャリアの迷惑メールフィルタから外すようにお客様に対応いただくという工程がありましたが、こういったことを説明するのは大変でした。これらの課題に対して、UIの改修や新しい制度、サービスを提供するといった取り組みを実施してきました。

―― KPIはどのように設定しているのでしょうか

徳丸様 CRM基盤を構築するという目標があったため、当初は会員数を伸ばすというのが大事な指標でした。店舗経由で会員を伸ばすのは一段落したので、Web施策による獲得を目指しています。

ただ、求められることは組織の状況によっても変わります。立ち上がりフェーズではリアル店舗への送客装置としての役割を求められていましたが、ECサイトとして売り上げを伸ばすといったことが求められたり、データを使ってブランドマーケティングを支援するといったことが求められたりもしました。その度に求められる方向にフィットさせ、成果を出してきたつもりです。

―― 失礼な質問で恐縮ですが、それまでご自身にはデジタルの経験はなかったと伺っています。なぜそういったことができたのでしょうか

徳丸様 ブランドマーケティングの部署に所属していた時代は、コンビニエンスストアで販売する製品を担当していました。コンビニというのは入れ替えが早くて3か月で入れ替えられることもあったりします。また、POSを通じて日販情報が毎日送られてくるので、数字で明確に効果が分かるという側面もあります。

私は自分のことを資生堂のメインストリームを歩んできた人間ではないと思っていますが、こういった経験が、既存の考え方にとらわれず結果を出す姿勢を持てるようになったのだと思います。

◆事業会社がパートナー企業に求める役割

―― 外部パートナー(広告代理店やツールベンダー、経営コンサル)に求めるものはなんでしょうか?

徳丸様 パートナーなしにここまで来ることはできませんでした。今は数十人いる組織ですが、当初は9人しかいませんでした。パートナーの方々に支えられて事業を成長させることができたと言っても過言ではありません。

パートナーの方々に求めることは「我々と同じ気持ちもってやってもらえるかどうか」につきますね。協働の結果、我々がビジネスで成功することで継続的な取り組みにつながり、お互いのメリットにもなると考えております。

例えばベンダーの方に期待するのはシステムが問題なく動くというのはもちろん大事なのですが、お客様に使いやすいかどうか、資生堂としての観点を持っていただけるとありがたいです。

代理店、ITベンダー、広告会社、戦略コンサルなどそれぞれに強みをパートナーがいらっしゃいますが、パーツパーツで動いてしまうとサイロ化してしまい、全体の統一がとりにくくなってしまいます。すべての行動がお客様に向き合っているという気持ちで一緒に仕事できるとよいなと考えております。

―― そんな中で我々PenguinTokyoについて期待することをお聞かせください

徳丸様 我々はいかにお客様のお役に立てるかという競争で戦っているのですが、そこに対して一緒に戦っていただくことを期待しています。

例えば、広告を使った新規会員を獲得と、CRMによるナーチャリング、UIの改修では、別々のパートナーが担当することになります。ここまでやったら終わりというバトンタッチの考え方ではなく、課題に対して一緒に向き合っていただくというのが理想の状態です。

―― 現在御社に常駐させていただいておりますが、代理店との打ち合わせで出てくる悩みというのは事業が抱える悩みのごく一部であるというのは実感しています

徳丸様 難しいのはビジネスの中に入ってもらわないと本質的なことはできないということ。そこまでパートナーにお願いするというのは簡単ではないと考えています。

また、パートナーの視点に立って考えると、ある程度型化して得意分野を作らないと非生産的ではあると思っています。明確な目的がない動きに対しては目に見える効果が出にくいというのも課題でしょう。

Penguin Tokyoさんにはいろいろなことを相談させていただいてありがたいと思っています。逆に聞いてみたいのですが、事業側に常駐しているマーケティングパートナーの立場からは他のパートナーはどう見えていますか?

―― もっと一緒に苦労しようよという思いはある一方で、パッケージ売りしたほうが営利企業としては合理的だと思ってはいます。でも私自身、コンサルティング会社から独立してやっているので、利益の部分だけでなく、志の部分も大事にしていきたいと思っています。また、資生堂さんはビジネスマンとして志の高い人が多くて勉強になっています

徳丸様 ありがとうございます。私たちもパートナーさんに対して同じ気持ちになってもらうよう、テーマを掲げるようにしています。

単なるECサイトとして取り組むのではなく、「お客様とダイレクトにつながることができる」というテーマを設けているのもその一環ですね。これがあるとないとでは全然違うと思っています。

―― Penguin Tokyoが携わったレシピスト、ザ・コラーゲンの現在の課題と、その中でPenguin Tokyoに期待していたことや足りなかったことは何でしょうか

徳丸様 レシピストとザ・コラーゲンのテーマは、これまでのやり方を変えることも含めて、ECビジネスの「型」を作ることでした。

※注釈※ 「レシピスト(https://www.shiseido.co.jp/recipist/)」はスキンケア製品のブランド、「ザ・コラーゲン(https://www.shiseido.co.jp/collagen/)」は健康・美容のためのブランド。

今のPenguin Tokyoさんとの取り組みは、担当である勅使川原さんのタレントに依存しているのですが、作った型をスケールアップさせていく部分を期待したいと思っています。今後の課題は組織をどうスケールさせるかですね。

社内での人材育成もしていかなければならないと考えていますが、何をインプットすればマーケターとして1人前の人材になるかは試行錯誤しているところです。

―― 今後の組織づくりをどう考えていますか

徳丸様 資生堂としてECマーケターのキャリアパスが明確になっていないという課題があります。ここを明確にしていきたいと思っています。各個人についても、どこが強くてどこが弱いかをクリアにすることで、能力を高める取り組みをしたいと考えています。

これは私見ですが、統一テストや資格試験があるわけではないので、意識が高く自分から進んで勉強する人と、ここからここまでと決めたらやらない人で差がついてきている印象がありますね。

外部からの採用に関しても積極的におこなっていく予定です。このあたりの戦略について、PenguinTokyoさんにも一緒に考えてもらえるとありがたいです。

―― はい、これからもよろしくお願いします。ご期待に沿えるよう精進していきます

徳丸様 よろしくお願いします。

<カメラマン>
・岡田雷平